雨(2) 時 | いい小説とは?|盗作日記

雨(2) 時

 この場からいなくなりたい。しかし彼は待つという行為は嫌いではない。期待と不安が入り混じるこの時間は、暇でも無駄でもない大切な大切な時間だから。彼は決心した。相手を待つことを。どうしようもないのだから。チクタクチクタク雨が降る。

 「時間を守れ」と誰かが言っていた。また他の誰かが「なんでもタイミングが大切だ」と言っていた。時は誰もが同じように持っているが、誰も持つことはできない。時は、時には攻撃に時には防御に時には仲間に時には敵に、時には時としてすべてのものになる。チクタクチクタク雨が降る。

 ここに来たのは5年前、この相手と最後に会ったとき以来だった。時が経てば変わっていく。すべてが時とともに動いていく。それ以来会っていなかった。いや、もうこの人にとって彼とは再会ではなく初対面となるのだろう。時が経ってしまったのだから。チクタクチクタク雨が降る。

 それでも相手は彼との再会と思ってくれているのかもしれない。彼には分からない。何をしているかも分からなくなる。それほどに彼の中にはいろんな思いが募る。しかし、、それはすべて過去である。しかし、、過去は時が流れただけのこと。思い出という言葉こそ過去のようだが、思いは現在である。チクタクチクタク雨が降る。

 彼は相手を信じて目を閉じた。そのまぶたの裏には、はるかなる思い出の道を通ってきた相手への思いが見える。相手を待つ間は、時と相手への思いとともに過ごすことにした。そう、だから彼は今一人ではない。チクタクチクタク雨が降る。

 時には逆らえない。というより、時に馴染んでいく。しかし彼の思いが時に馴染むことはない。また、時は彼の思いを左右に揺さぶることさえもできない。そう彼は必死に信じていた。絶対に変わってはいない。時なんて関係はない。この雨が降り続けているのと同じ様に。チクタクチクタク雨が降る。

 どれくらい経ったのだろう。チクタクチクタク雨が降る。チクタクチクタクチクタク彼は話しかけられた。雨なのか、それとも時なのか、彼は目を開けた。

つづく