雨(4) aime | いい小説とは?|盗作日記

雨(4) aime

 「恋」そんな言葉が教室中を飛び交ってた頃が懐かしい。彼は、我こそはとタクシーに向かって降ってくるような雨を見ながらそう思った。「恋」という言葉は大人になっていく過程で少しづつ消えていった。今では周りにあったはずの「恋」という言葉はそれを飛び越して「愛」になってしまった。

 「恋」なんていう甘酸っぱさを含んだ気持ちは最近そう聞かない。人を好きというただそれだけだった「恋」は、知らない間に濃度を増し、深さと汚さを全体にまとわり付け「愛」と化けてしまった。そして彼は後部座席から後ろを見た。無数の雨と無数のヘッドランプが、彼を犯人として捕まえるかのように同じ方向を向いていた。

 確かにあのころ彼らは恋人だった。今降っている雨のように、愛の言葉が時を気にせず、また時が止まることを願いながら降り注いでいた。

 タクシーの運転手が「着きましたよ」と言うまで、この雨以外は思い出の中だった。ロビーの手前で振り返った彼には、上から光が降り注ぐ。タクシーの運転手はすぐにどこかに行った。もう一度あの駅へ行って、彼女を連れてきてくれれば良いのに。

 ホテルの部屋に入り、彼はすぐにベッドに横になるでもなく、シャワーを浴びるでもなく、窓際によっていった。さっきあんなにも見た雨の中に彼女の顔が見える気がした。こっちを見てくれてる気がした。

 彼女の顔は、再びとてもとても美人な顔に再生されていた。後悔の念と思い出が行ったり来たりを繰り返す。「会いに行こうか?」「もう遅い」「まだ彼女はいるかもしれない?」つまらない自問自答に期待を交えながらの夜。あの時と同じだ。

 あの時僕は17歳だった。

つづく