雨(5) あなたが私を殺すから | いい小説とは?|盗作日記

雨(5) あなたが私を殺すから

 毎朝、僕は六時に起きる。六時になると、綺麗な看護婦さんが来てくれる。おはようございます。えっ? うん、最近調子いいよ。

 体温は今日も安定しているみたいだ。よかった。でも看護婦さんがもうすぐ退院だと言うと急に寂しくなる。何故だろう? 隣室のあの子に会えなくなるから? 

 誰か教えてよ。彼女が好きなのに、会うのが怖いのはどうしてなのか。もうすぐ僕は退院してしまうんだ。病気は治っても、あの子と別れるのはいやなんだ。

 今日も病室の前まで行ったのに、足がすくんでしまった。もう足は動くのに。もう熱もないのに。

 部屋に戻ってテレビを見る。でも、下半身がムズムズして、すぐに僕はトイレに駆け込む。

 またやってる。一週間も彼女を見ていないのに、僕は彼女を思い浮かべて右手を動かす。結局、彼女は顔を隠したままだけれど。

 トイレットペーパーに射精した後、僕は自分が汚れてしまったように思えてくる。ねえ、どうして君はいつも顔を隠してしまうの? オナニーする僕が嫌いだから? 

 トイレから出ると、みんなが僕を見ている気がする。

「あいつ、またやってたんだ」

「だから治るのが遅いんだ」

 そんな声が聞こえた気がして、僕は赤くなって部屋に駆け込む。


 あれ? どうして君がいるの?

 だってここ、あたしの部屋よ。

 そうだっけ。でもいいや。僕は君のことが好きなんだ。

 実はここ、あなたの部屋なのよ。

 じゃあどうして君はここにいるの?

 どうしてもあなたに会いたくて。 

 本当?

 ウソよ。

 どうしてウソをついたの?
 
 私、どうせ死ぬからどうでもいいの。

 どうして分かるの?


 あなたが私を殺すから。 


 その声にハッとなって、いつもここで目が覚める。確かに彼女は、僕が殺したようなものだった。今となってはもう思い出すことも少ないが、この夢を見る度に、僕は罪の意識でやりきれなくなる。

 何故僕はあんな恋をしたのだろう? 

 何度そう思ってみても、それはもう取り返しできないのだ。それに、あの時の僕はああすることしかできなかったのだから。

つづく