雨(7) 恋の季節 | いい小説とは?|盗作日記

雨(7) 恋の季節

 高校に通い、授業を受け、友人から借りたエロ本でオナニーをしているだけで、じきに一月が経った。仲間たちが話すことといえば、相も変わらず恋の話。でも、ほとんどの友人にとって、恋=オナニーであり、「あの子が好きなんだ」という科白は、「今日はあの子で抜くよ」という意味に限りなく近かった。

 僕の恋も似たようなもので、スカートから覗く脚や胸のふくらみを見て欲情し、前かがみになって授業をやり過ごしていた。稀にショーツが見えたりしてどうしても我慢できなくなると、僕たちはトイレに駆け込んでオナニーをした。しかし、我慢できなかった者は、授業中、精液が染み出てきたことによる居心地の悪さに襲われることになり、また、青竹のような精液の臭いが梅雨の教室内に漏れやしないか気にするのだった。

 依然として下半身がじめついていても梅雨は終わり、生徒たちは夏服に身を包む。色情狂ことセミが鳴き始め、軽快な服装が気分を浮つかせる。恋の季節が来たのだ。

 しかし、いくら夏が来ても、衣替え以外に僕の高校生活に変化はなかった。

 その反面、僕と同じく照れ屋だった筈のサトシは、人が変わったように積極的になっていた。冬服と一緒に照れを脱ぎ捨てたようだった。彼はあの日の少女を追いかけ、しきりにデートに誘っていた。

 そして、二人が付き合い始めたという噂が何処からともなく聞こえてきた。僕は大した感慨も嫉妬も覚えなかったが、ある日、二人が茶道部の和室に入っていくのを見てしまった。そこで僕が目にしたのは友人のサトシではなかった。確かにそれはサトシなのだが、僕には彼がただ、一人の男に見えた。

 一人の男が、一人の女を抱いている。僕は卑怯にも、数センチ開けた戸の隙間からその光景を盗み見する。それが友を裏切ることになるとは、思いもしないで。

つづく